映画「海よりもまだ深く」は、阿部寛主演、2016年の是枝裕和監督の日本映画です。
この映画「海よりもまだ深く」のネタバレ、あらすじや最後ラストの結末、見所について紹介します。
ダメ人生を送る中年男と家族のほろ苦い家族ドラマ「海よりもまだ深く」をお楽しみください。
舞台となる団地は、是枝裕和監督が28歳まで実際に住んでいた東京都清瀬市の旭が丘団地が使われています。
「海よりもまだ深く」スタッフ・キャスト
■ スタッフ
監督: 是枝裕和
製作総指揮: 桑田靖、濱田健二他
製作:松崎薫、代情明彦、田口聖
脚本: 是枝裕和
撮影: 山崎裕
音楽: ハナレグミ■ 主要キャスト
篠田良多:阿部寛
響子:真木よう子
篠田淑子:樹木希林
真悟:吉澤太陽
千奈津:小林聡美
山辺:リリー・フランキー
町田:池松壮亮
愛美(まなみ):中村ゆり
福住:小澤征悦
仁井田:橋爪功
「海よりもまだ深く」あらすじ
篠田良多(阿部寛)は、昔書いた小説が賞を獲った事で小説家という夢かを諦めきれない男です。
しかし執筆は進まず、妻にも愛想をつかされ息子と会えるのは月に一度という状況・・・。
その上ギャンブルにはまり養育費の支払いもままならないような男に降って湧いたある一日。
台風の夜、元妻の響子(真木よう子)と息子・真悟(吉澤太陽)と共に過ごすことになったのです。
場所は母・淑子(樹木希林)が暮らす実家。
果たして、元・家族の彼らにとってこの夜はどんな時間になるのでしょうか・・・?
「海よりもまだ深く」ネタバレ
良多(阿部寛)はある日、電車とバスを乗り継ぎ実家である団地へ帰ってきました。
ところが、母・淑子(樹木希林)は留守のようです。
隠し鍵を使い家の中に入った彼は、母がいないことを幸いに、こそこそと家探し始めます。
彼は父親が持っていると話していた掛け軸を探しているのです。
そこへ帰ってきた淑子(樹木希林)。
良多(阿部寛)から掛け軸の在処を聞かれるも、お父さんのものはお葬式の次の日に捨てた、と答えます。
落ち込む良多(阿部寛)。
良多(阿部寛)は久しぶりの実家で、自分が子供の頃とは明らかに変わった時間の流れを感じています。
ベランダには良多(阿部寛)が中学生の頃に植えたみかんの木も大きく育っています。
懐かしげな良多(阿部寛)に対し、花も実も付けないんだけどね、と淑子(樹木希林)はチクリ。
俺だって役に立つよ、と不満気な息子に淑子(樹木希林)はこれ幸いとばかりに、台風に備えて観葉植物を窓際に寄せてくれるよう頼むのでした。
ところがここでも良多(阿部寛)は冴えません。
意気揚々と寄せた瞬間、窓ガラスを割ってしまったのです。
淑子(樹木希林)が後片付けをしている間、良多(阿部寛)は別室に潜むように座り、誰かと電話しています。
どうもお金のことで揉めている様子。
淑子(樹木希林)がやってきたことで慌てて電話を切った良多(阿部寛)は、部下からの電話だとごまかしますが、彼がお金に困っているのは明らかです。
それでも、虚勢を張って仕事が順調であることをアピールする良多(阿部寛)。
彼の職場は探偵事務所です。
危ないことしないでよ、と心配する淑子(樹木希林)を安心させるためか、なけなしのお金から一万円を出し母親に差し出す良多(阿部寛)。
小遣いだよ、と遠慮しても押し付けるようにして渡された淑子(樹木希林)は、嬉しそうに笑うのでした。
淑子(樹木希林)に見送られ実家をあとにした良多(阿部寛)は、その足で質屋に向かいます。
持ち込んだのはカメラ。
綺麗でしょ、と差し出すも付いた値段は三千円です。
そして店の主人は良多(阿部寛)に気づきます。
あんた篠田さんトコの・・・
この質屋は良多(阿部寛)の父親も行きつけにしていた店でした。
まいったよ、ボロボロの掛け軸持ち込んでさぁ、と話す主人。
父親は息子の手術代が必要だと言って掛け軸を既に売り払っていたのです。
しかし良多(阿部寛)は手術なんてした事がありません。
適当な嘘で父親が持ち込んだ掛け軸、それは雪舟だったか?と聞く良多(阿部寛)に主人は、そうだよ、印刷だったけどね、と軽く答えるのでした。
探偵事務所で働くことにしたのはあくまで小説のためだった良多(阿部寛)。
しかし今の彼は執筆も進まず、依頼を受けて調べた情報をターゲットに漏らし小金を稼ぐような有様です。
そうしてせしめたお金を、そのままギャンブルに持ち込む良多(阿部寛)。
これで勝って最近野球を始めた息子・真悟(吉澤太陽)にグローブを買ってやるんだ、と意気込む彼に部下の町田(池松壮亮)は、自分が一万円も貸したにも関わらずまだ買っていないんですか?と呆れながらも付き合ってくれるのでした。
町田(池松壮亮)は、良多(阿部寛)のだらし無さに呆れつつも笑いながら付き合ってくれる奇特な青年です。
それはプライベートな部分でもそうでした。
町田(池松壮亮)は真悟(吉澤太陽)の野球の試合を見に行く良多(阿部寛)にも付き合ってくれるのです。
二人は車の中に身を隠すようにしてグランドを見ています。
良多(阿部寛)がいま一番気になるのは、真悟(吉澤太陽)の応援に来ている白石響子(真木よう子)、の隣にいる体格のいい男性。
彼は大声で真悟(吉澤太陽)に声援を送っています。
良多(阿部寛)は探偵としてのスキルを発揮して男の素性を調べていましたが、出身校から勤め先まで一点の曇りもない履歴を前にはぼやく悪態も弱々しいもの・・・。
真悟(吉澤太陽)が持つ新しいグローブをジッと見つめることしか良多(阿部寛)のは出来ないのでした。
響子(真木よう子)に未練タラタラなくせに、常に金に困っているような生活をしている良多(阿部寛)はついに、依頼とは関係なく人を脅すようになってしまいました。
高校生を写真で脅し金を巻き上げたのです。
もちろん事務所の所長(リリー・フランキー)には内緒の行為でしたが、これが命取りとなりました。
高校生は元警察である所長(リリー・フランキー)の上司の息子だったのです。
いつもの薄らわらいを消した所長(リリー・フランキー)が静かに話します。
潰す気か、この事務所、と。
そうは言っても彼は良多(阿部寛)を解雇するつもりはないようです。
事務所に内緒で得た良多(阿部寛)の収穫を差し出させ、元家族に会う為に必死になっていると思い込んでいる所長(リリー・フランキー)は、もう会うのはやめとけ、と注意します。
だれかの過去になるの勇気をもつのが大人の男だ、と―――。
そうは言っても月に一度の面会日はやってきます。
約束の時間に遅刻した良多(阿部寛)に響子(真木よう子)は不機嫌に接し、二ヶ月も支払いが遅れている養育費についてものらりくらりと逃げる彼に苛立ちを隠しきれません。
それでも、良多(阿部寛)は真悟(吉澤太陽)との一日を許されました。
真悟(吉澤太陽)を連れてスポーツショップに向かった良多(阿部寛)。
昔オヤジに買ってもらったグローブを今でも大事にしているから、と言って町田(池松壮亮)がお金を貸してくれたのです。
父親の懐事情に遠慮して安いスパイクを選ぶ真悟(吉澤太陽)にミズノ買ってやるよ、と言ってレジに向かった良多(阿部寛)は、息子に聞こえないよう値引きを要求しながらもやっと野球道具を買ってあげることが出来たのでした。
そしてモスで食事を摂りながら響子(真木よう子)の結婚について真悟(吉澤太陽)から聞き出します。
真悟(吉澤太陽)は特に母親の結婚に関心はないようですが、父親のしつこい追求には一応答えてくれました。
息子が響子(真木よう子)の再婚を嫌がってない事にショックを受けながらも店を出た良多(阿部寛)は、息子といるにも関わらずギャンブル熱が収まりません。
なんと真悟(吉澤太陽)にも宝くじを買い与えたのです。
そして向かったのは淑子(樹木希林)の家でした。
響子(真木よう子)が真悟(吉澤太陽)を迎えに団地についた頃には、だいぶ雨も風も激しくなっていました。
別れてからも時折真悟(吉澤太陽)を連れて訪ねてきている響子(真木よう子)は今でも淑子(樹木希林)をお母さんと呼んでいます。
玄関先で帰るつもりが勢いをます台風により結局一泊することになってしまった響子(真木よう子)。
降って湧いた幸福な時間に良多(阿部寛)は嬉しさを隠しきれず満面の笑顔です。
淑子(樹木希林)は真悟(吉澤太陽)が書いた作文を聞いて、良多(阿部寛)が小学生だった当時の作文を持ち出します。
真悟(吉澤太陽)にも文才があるかもしれないという淑子(樹木希林)に浮かないかを見せる真悟(吉澤太陽)。
彼は彼なりに両親の離婚による影響を受けているのです。
宝くじがあたったらまたみんなで暮らせるかな?
大きな家を建てておばあちゃんも一緒に住もう、そう話す孫の言葉に淑子(樹木希林)は静かに瞳を潤ませるのでした。
真悟(吉澤太陽)が風呂に向かった事で、部屋に二人きりになった良多(阿部寛)と響子(真木よう子)。
息子を勤勉な子に育てたいと思っているのに、良多(阿部寛)が宝くじを買い与えたことに怒っている彼女は、良多(阿部寛)に釘を刺します。
もう別れたんだ、と。
いつも会うだけ会ってお金を持ってこない良多(阿部寛)に、次はないからね、と言い放つのでした。
夜が更け、淑子(樹木希林)が眠ったのを確認した良多(阿部寛)は、再び家の中を物色し始めます。
そしてやっと見つけたのはストッキングに入れられた包み紙。
ところが、そっと取り出し開けた包の中にあったのは、残念でした!と千奈津(小林聡美)が書いたダンボール紙片でした。
どこを探しても見つからない金目のものに飽きたのか、線香立ての掃除を始めた良多(阿部寛)。
すると淑子(樹木希林)が起きだしてきました。
今更線香立てを掃除したって父親はもういないよ、と話す淑子(樹木希林)は、いるときに大事にしないと、と言います。
どうして男ってのは今を愛せないのかねえ、と話す母の言葉は良多(阿部寛)自身の人生を心配して漏れたものでした。
いよいよ強さを増す台風。
すると真悟(吉澤太陽)が起きてきました。
良多(阿部寛)は息子を外へ誘います。
昼間、父の幼少期の話を聞いていた真悟(吉澤太陽)は、嬉しそうにその冒険に乗り、二人は団地の公園へ向かって出て行ったのでした。
家に残った響子(真木よう子)は、淑子(樹木希林)の手伝いをしながら朗らかに話をしています。
お互い教師を目指したことがあったなどの共通点に喜ぶ淑子(樹木希林)。
少しの盛り上がりのあとポツリと言いました。
もうダメなのかしらね、あなたたち・・・と。
「海よりもまだ深く」最後のラスト結末
目線も肩も落としてしまっている淑子(樹木希林)に響子(真木よう子)は、感謝の気持ちを述べながらも良多(阿部寛)は家庭には向かないと思う、と伝えます。
ごめんなさい、とお互いに言い合う重い空気を吹き飛ばすように、この話はおしまい!と言った淑子(樹木希林)は、保管していたへその緒を出してきました。
真悟、と筆で書かれたその箱を、これはあなたが持っててと差し出す淑子(樹木希林)。
なんでこうなっちゃったんだろう、と溢れる涙を拭おうともせず呟いた彼女は、そんな自分を振り切るように殊更大きな声で、それにしても汚い字ねえ、と良多(阿部寛)の書いた「真悟」にケチをつけるのでした。
外に出た良多(阿部寛)と真悟(吉澤太陽)は、公園の遊具の中で雨風を避けながら嵐の夜を楽しんでいました。
将来の夢の話などをしていると、そこへ響子(真木よう子)の声が。
迎えにやってきた響子(真木よう子)ですが、真悟(吉澤太陽)がジュースを買いに走ったことでもう少し公園にいる事になります。
駆け出した真悟(吉澤太陽)を見ながら、こんなはずじゃなかったのにな、とぼやく良多(阿部寛)。
その言葉に同感を返しつつ、それでももう決めたことなんだから前に進ませてと響子(真木よう子)は話すのでした。
こうして台風の夜が明けました。
台風一過。
晴れ渡る空の下、帰る三人を見送る淑子(樹木希林)。
並んで歩く姿は家族にしか見えません。
その帰り道、実家で見つけた硯を質屋へ持ち込んだ良多(阿部寛)。
期待していませんでしたが、店の主人が付けた値段は30万円。
驚く良多(阿部寛)に主人は彼の小説を出してきます。
それは良多(阿部寛)の父親が持ち込んだものでした。
良多(阿部寛)の父親は、彼が賞を獲った時にも褒めてくれませんでしたが、実は息子の快挙を喜んでいたようなのです。
嬉しそうだったよ、と聞かされ初めて父の気持ちを知った良多(阿部寛)。
暖かくなった懐を抱えて駅で待っている響子(真木よう子)達の元に帰ると、一緒に電車に乗り込み帰ります。
それでも駅に着いてしまえば帰る家は別々です。
また来月に!と別れ、帰る二人を見送って、良多(阿部寛)もまた自分の道を歩き始めるのでした。
完。
「海よりもまだ深く」見所ポイント!
是枝監督お得意の、普通の家族の日常に訪れる特別な一日を丁寧に描き出した作品でした。
是枝作品初出演の池松壮亮酸などの新しい風も感じさせつつ、それでもやはり画面を引っ張ったのは阿部さんと樹木希林さんです。
お二人共2008年の是枝作品【歩いても歩いても】と同じく親子役で似たような関係性の役柄でしたが、それでも作品に合わせた切なさを見せるところが凄かったです。
特に樹木さんの涙芝居には胸を掴まれます。
日常の中でふと溢れる涙、人に見せる為ではない涙のその自然さがより淑子の寂しさをこちら側に伝えてきました。
普通の家族を映し出しているからこそ、自分とは全く遠い世界の話だとも思えない一作。
大きな出来事が起こる話ではありませんが、じっくりと鑑賞していただきたい作品です。
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