映画「仕立て屋の恋」はミシェル・ブラン主演、パトリス・ルコント監督の1989年公開の作品です。
この映画「仕立て屋の恋」のネタバレ、あらすじや最後のラスト結末と見どころについて紹介します。
嫌われ者で変人の仕立て屋が向かい側の部屋に住む女性の私生活を覗き見ているうちに・・・「仕立て屋の恋」をお楽しみください。
「仕立て屋の恋」あらすじ
発見された成人女性ピエレットの死体、犯人の手掛かり無し。
事件を追う刑事(アンドレ・ウィルム)は、一人の仕立て屋に関心を持ちます。
名前はイール(ミシェル・ブラン)。
その身なりは仕立て屋らしくシッカリしていて、仕事を任せる者も。
しかし、わいせつ罪で懲役6か月、イールを白い目で見る者は大勢。
イール自身もその人々を嫌っているし、むしろ興味がないのです・・・
一人暮らしのアパートの一室。
レコードの針を落とし流れる、ブラームス『ピアノ四重奏曲第1番ト短調Op.25』。
電気もつけず窓に近づくイールは、向かいに建つアパートの一室を見下ろします。
暗闇にぼーっと浮かぶイールの顔は、いつもの無表情と何ら変わる事はありません。
イールが見ているのは、成人女性アリス(サンドリーヌ・ボネール)。
中背のイールより背は高く美人。
他愛もない、部屋で過ごすアリスの姿を覗き見ることが、最近のイールの日課でした。
ある嵐の夜、稲光がイールの顔を窓に浮かび上がらせます。
それを見たアリスは部屋の奥へと身を隠し、考え込みました。
後日、イールにわざと接触するアリス。
その近距離に言葉も出せず立ち去るイールに、アリスはほくそ笑みます。
覗き見ることが出来てもそれ以上求めないイールは、最近は禁欲的な暮らし。
アリスが恋人と身体を重ねていれば窓から後ずさり、肌を寄せる娼婦に癇癪を起すように。
そして・・・
「仕立て屋の恋」ネタバレ
恋人エミール(リュック・テュイリエ)と、結婚を望んでいるアリス。
彼もそれを仄めかすも、焦らされてばかりでした。
目的を持ってイールを挑発し始めるアリスと、彼女を追いつつも触れる事はしないイール。
この日、とうとうアパートにアリスを招き入れ、言葉を交わします。
互いの出方をうかがう様な、イールとアリス。
イールの事を怖がる者が多いのに、覗かれていたアリスは「…嬉しい、あなたは特別」と。
いつもと同じ窓、同じ表情のイール、違うのはスグ隣にアリスが居る。
「私のすべてを、知り尽くしているのね」
「…少しだけなら知ってる」と、向かい合うイール。
アリスに手を握られたイールは激高し、その日は終わりました。
恋人エミールに結婚を迫るアリス。
たとえ彼が警察に追われる身だとしても、アリスは愛を貫く覚悟があります。
差し迫った危機感にアリスに不安を漏らすも、逮捕されるつもりもないエミール・・・
成人女性ピエレット殺害の容疑者を、仕立て屋イールだと踏んでいる刑事。
自白を促そうとアパートを訪ねても、いつも通り平然とかわすイール。
収穫がない刑事、玄関先に置かれたアリスからの手紙に気づきイールを呼び戻します。
「かわいい子だな、賢そうだし…」
刑事の不必要な一言に、手紙を拾うイールは無言でドアを閉めました。
イールを怒らせた事を詫び、会いたいと書かれたアリスの手紙。
約束の日曜日、身だしなみを整え、香水をつけるイール。
アリスは恋人エミールに会ったのち、密かにイールとの待ち合わせ場所へ。
自分のことを待っているアリスを、イールは遠くからそっと見つめます。
ゆっくりと近づき「…遅れて、すまない」と言うと、アリスは微笑んでくれました。
レストランで食事をするイールとアリス。
流暢に喋るイールは「一人でよく来るが、二人がいい」と、本心も。
アリスの口から恋人エミールの名前が出れば、さも当然のように「知ってる」と。
覗き見るうちに顔を覚えたイール。
しばらく無言で目を伏せるアリスが話題を変えると、イールは遮ります。
「君の私生活は知ってる」
今度は、イールが話題を変えました。
このままパリ暮らしではなく、スイス・ローザンヌに永住するつもりのイール。
それ以上は語らず、アリスとの時間を思いのほか楽しめたイールは写真を撮りました。
しかし、アリスが好意があって接しているとは思わない。
遠回しに、そして確実にアリスの心が揺れる言葉をイールは投げかけます。
その意味が分かるアリスは、イールに背を向け「…抱きしめて、いいでしょ?」と。
アリスにキスされるイールは、恋人エミールの名前を口にして核心に触れました。
「あの晩の事を、知りたいんだろ?」
エミールが成人女性殺害の真犯人、アリスが証拠隠滅を加担。
全部を知っていても、警察に届けることは出来なかったイール。
娼婦との事を赤裸々に語るイールは、もう彼女らとは寝ていないとも言います。
「君に恋をしたから 愛してる……」
「だめよ、愛さないで」と、イールを後ろから抱きしめるアリス。
互いの出方を待つかのように、目を合わす事なく二人は別れます。
後日、列車内には恋人エミールとアリス、彼女のすぐ後方にはイールの姿が。
大勢の観戦者が居るボクシングの試合を、エミールは友人と。
一人で立つアリスの横にはイール。
言葉は交わさず、二人は互いの一部を触れるのでした。
しかし、試合を見ていたはずのエミールが、顔色を変えて会場から抜け出します。
アリスはエミールのあとを追い、イールはアリスをじっと見つめていました。
警察が近くに居ると、友人に知らされたエミール。
一緒に逃げる覚悟があるアリスを、連れて行く気はありません。
「愛してる 忘れるな」と言って、アリスを置いて逃亡します。
しゃがみ込むアリスに、イールは愛を告白。
あまりにも真っ直ぐな愛、ほんの少し微笑んだかに見えるアリス。
スイス・ローザンヌ行きの切符を渡し、駅で待っているとイールは伝えます。
刑事は、遭遇したイールに掴み掛かりました。
表情を変えず、いつも平然としている仕立て屋の本心が刑事には見えません。
思わず、フッと笑みをこぼすイール。
刑事は「悪かったな… だが、馬鹿げてる」と、言って去ります。
「仕立て屋の恋」最後のラストの結末は?
旅立つ準備を整え、駅にやって来たイール。
しかし、発車時刻になってもアリスは来ず、イールは住み慣れたアパートに戻りました。
ドアを開けると、待っていたのは刑事。
「…君が犯人ではないと、確信してたのに」と、残念そう。
イールが部屋の奥に目をやると、俯くアリスが居ました。
恋人エミールが犯した殺人の罪を、イールに被せたのです。
いつものように無表情、しかしドコか悲しみを帯びているイール。
しばらくアリスと見つめ合うと、責める事はしませんでした。
素直な気持ちをアリスに伝えたイールに、詰め寄る刑事。
逃亡し屋上へと駆け上がったイールは足を滑らせ、手を離せば一巻の終わり。
下には、イールの最期の時を無表情で見上げ、微動だにしない人々。
生きるため、一人で必死に堪えたイール。
しかし、力が尽きると……
転落するイールを見ていたアリス。
血を流し、もう動かないイールを遠巻きにして眺める人々。
スイス・ローザンヌにアリスと旅立とうとしたイールは、刑事に手紙を書いていました。
添えられたコインロッカーの鍵、中には真犯人がエミールと示す物証が。
愛したアリスを守り、ただ二人で幸せに暮らすことだけを望んだイール。
一途に恋しただけの仕立て屋の本心を知った刑事は、立ち尽くすのでした。
THE END
「仕立て屋の恋」見どころ
『仕立て屋の恋』は“百聞は一見に如かず”的に、とにかく実際に自分の目で観て、体感して欲しい作品です。
耳を研ぎ澄ます、オープニングクレジット。
殺人事件、刑事の哀愁、そして青白い顔のイールが映し出されると……
そこで彼がしていた行為は、どうやら善のようですが、身震いするかもしれません。
仕立て屋イールの日常に特別感はなく、アリスを覗き見ることもあくまで彼の日常。
そんなイールを凝視してしまうと生ぬるい湿り気を感じ、息を呑む展開に引き込まれます。
確かに、愛想がないイール。
だけど、微細ではあるけど感情の揺れ動きは描写され、印象が変わる事もあるでしょう。
やはり多くは、イールの“目”に彼の真意が現れているように思えます。
愛しい人を一心に見つめ、悲しみ或いは意気地がない時には閉じられる目。
アリスの香りに至極の喜びを感じる。
様々なイールの表情は、ヒーローになれるボーリング場での笑顔も見どころです。
イールを演じたのは、フランスの名優ミシェル・ブラン。
そして、イールに愛されるアリスを、国内外の映画祭で女優賞を受賞する実力派サンドリーヌ・ボネール。
実年齢では15歳差の二人。
自分を愛するイールの気持ちを利用し、別の男に惚れ込む20代の美しいアリス。
彼女を愛するが故にその思惑に乗り、しかし純愛へと導こうとするイール。
可能性が低い愛だとしても、アリスとの幸せを切に願うイールが駅のホームで待つ姿。
そして、イールが迎える結末、アリスの表情はあなたにどう映るでしょう?
仕立て屋のイールとはどんな男か?貫いたのは純愛か、愚かな愛か。
フランス映画の巨匠パトリス・ルコントが描く愛の世界を、どうぞご堪能下さい。
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