映画「あの日の声を探して」は、ベレニス・ベジョ主演、ミシェル・アザナヴィシウス監督の2014年のフランス映画です。
この映画「あの日の声を探して」のネタバレ、あらすじや最後ラストの結末、見所について紹介します。
チェチェン紛争で両親を失い、口が利けなくなった少年を待つ運命を描く「あの日の声を探して」をお楽しみください。
■ スタッフ
監督: ミシェル・アザナヴィシウス
製作:ミシェル・アザナヴィシウス、トマ・ラングマン
脚本: ミシェル・アザナヴィシウス
撮影: ギヨーム・シフマン
音楽: ジャン・ミノンド■ 主要キャスト
キャロル:ベレニス・ベジョ
ヘレン:アネット・ベニング
コーリャ:マクシム・エメリヤノフ
ハジ:アブドゥル・カリム・マムツィエフ
ライッサ:ズフラ・ドゥイシュヴィリ
「あの日の声を探して」あらすじ
1999年、チェチェンに暮らす9歳のハジは、ロシア兵たちに両親を目の前で殺されショックで声を失ってしまいます。
姉も殺されたと思い、まだ赤ん坊の弟を見知らぬ人の家の前に置き去りにして、一人放浪するハジ。
戦火を逃れ、街へたどり着いたハジを路傍で見掛けたEUの女性職員キャロルは、見るに見かねて保護します。
キャロルは、せめて目の前の小さな命を守りたいと思い行動します。
ハジは声を取り戻し、生き別れた姉弟と再び会うことができるのか――?
キャロルの運命は?
「あの日の声を探して」ネタバレ、最後のラスト結末は?
物語は、誰かが撮る素人撮影の紛争地域から始まります。
死んでいる子牛の向こうで燃える家。
そして軍人に囲まれている民間人。
ただの農民ですと訴えても、無抵抗の男性を小馬鹿にしたように小突き周り、挙げ句の果てには撃ち殺してしまう軍人たちは、泣きすがる女性をも撃ち、ビデオに向かってふざけた調子で笑っているのです。
両親の亡骸に縋り付いて泣き叫ぶ娘のライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリ)。
その様子を家の中から全て見ていた少年・ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)は兵士たちが去ると、まだ赤ん坊の弟を抱いて、家を出ていきます。
ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)は、兵士の存在を感じるたび物陰に隠れながら歩き続けています。
彼が家を出た後、姉のライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリ)が戻ってきたことも、彼女もまた弟たちを探して家を出たことも知りません。
途中、一軒の家の軒先に赤ん坊を置き、弟が住人に受け入れられたのを見届けると、彼はただ歩き続けるのです。
そんな彼に話しかけてくれたのは、難民となった同胞を乗せたトラックでした。
何を話しかけられても答えないハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)を優しく迎えてくれた大人たちと一緒にたどり着いた先には、赤十字国際委員会の旗が立っています。
ここで彼はヘレン(アネット・ベニング)と面会します。
しかしここでも俯いて一言も声を発しないハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)は、隙をついてそこから逃げ出してしまうのでした。
場所を移したロシア連邦ペルミ市。
チェチェンから2300㌔離れ、戦争の色もないこの街に住むコーリャ(マキシム・エメリヤノフ)。
しかし些細なことで警察に引っ張られた彼を待っていたのは、残酷で無情な現実だったのです。
強制入隊させられた軍生活は最悪でしかありません。
彼はそこで戦死者の遺体を処理する係に任じられてしまったのです。
初めて接した遺体は、部屋で自死した兵士でした。
自殺にもかかわらず戦死だと書類処理しろという命令に疑問を感じるも上官の言葉は絶対です。
亡くなった兵士の部屋の壁に散った血飛沫を清掃しながらふと、立てかけられた銃を見て涙するコーリャ(ニコライ・エメリヤノフ)。
彼はここで生きていけるのでしょうか・・・。
ボロボロの街で寝泊まりしていたハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)は、キャロル(ベレニス・ベジョ)と出会います。
この出会いが彼にとっての救いでした。
EUの人権委員会に属し、この紛争を世界へ伝えるために現地で活動していた彼女は彼を家に連れ帰り、保護してくれたのです。
しかし一言も話さないハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)との生活に自信が持てないキャロル(ベレニス・ベジョ)は、ヘレン(アネット・ベニング)を訪ね助言を求めます。
しかし仕事に忙殺され疲れ切っている彼女との会話は、お互いがうまく話せずに仕事上のことを持ち出され、言い合いのようになってしまいました。
キャロル(ベレニス・ベジョ)自身腹を立てていた、国連が文書から「人的災害」という文言をロシアからの反対により削った事に、ヘレン(アネット・ベニング)もまた怒っていたのです
落ち込んで帰宅したキャロル(ベレニス・ベジョ)を迎えたのは、ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)からの思いがけないプレゼントでした。
宝石のついたネックレス。
彼なりの思いやりに元気を取り戻したキャロル(ベレニス・ベジョ)は彼を連れて本屋さんで買い物、そしてレストランでの食事を提案します。
笑顔を見せてくれるようになったハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)に、彼女は絵を描くことを促してみました。
まず自分が家を描いて・・・そしてそれを彼に手渡したところ、ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)は家を塗りつぶし始めました。
大きな瞳いっぱいに涙を溜めながら・・・。
コーリャ(マキシム・エメリヤノフ)は遺体と向き合う日々が続いていました。
上官からの理不尽な暴力だけでなく、訓練中も仲間からわざと殴られたりする為、彼の顔には傷が絶えません。
そんなある日、コーリャ(マキシム・エメリヤノフ)は自分と同じようにいじめられている赤毛の兵士と一緒に外へと連れ出されました。
そこで裸になれと言われたのです。
戸惑う二人に威嚇射撃して口汚く促してくる兵士に、赤毛はすぐに従い始めましたがコーリャ(マキシム・エメリヤノフ)は微動だにしません。
そんな彼に苛立って威嚇連射されるも、コーリャ(マキシム・エメリヤノフ)がとった行動は裸になる行為ではありませんでした。
彼は突然赤毛の兵士に飛びかかり、相手が血まみれになり痙攣するまで殴り続けたのです。
これをきっかけに彼は変わってしまいました。
身を寄せていた親戚宅の近くで末の弟と再会したライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリ)が、ロシア軍に追われるようにして村を離れ赤十字にたどり着いた頃、ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)とキャロル(ベレニス・ベジョ)の生活には温かな空気が流れていました。
彼女はハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)との意思疎通を図ろうと、フランス語でのYes、Noを教えてみました。
ウィ・ノン。するとハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)が答えたのです。
たった一言の言葉。
それを聴いたキャロル(ベレニス・ベジョ)の顔に広がる驚き、そして照れくさそうに笑うハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)の笑顔。
とても、印象深いシーンです。
赤十字に辿りついたライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリ)は、ヘレン(アネット・ベニング)にハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)の写真を見せました。
しかし彼はもうここにはいません。
ヘレン(アネット・ベニング)はライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリ)に温かな場所を提供することしかできないのでした。
ヘレン(アネット・ベニング)は、弟を探すことしか頭にない彼女に施設での役割を担って欲しいと伝えました。
アメリカ留学という夢を抱えて英語を勉強してきた彼女自身の人生を歩んで欲しかったのです。
施設にいる子供たちの面倒を見て欲しい、との頼みにライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリ)は応えるのでした。
転属願いが通り前線に赴任したコーリャ(マキシム・エメリヤノフ)は、徐々に自分の居場所を確保していきます。
彼にはもう、矯正入隊された頃の面影はありません。
精悍な顔立ち、遺体を見ても揺れない心、弱者を獲物と呼ぶ仲間とともに笑う―――初めて人を撃った時の衝撃は、生きるか死ぬかの場所では簡単に流されてしまいました。
新年を迎え、キャロル(ベレニス・べジョ)は待ちに待った連絡を受けます。
外務委員会の公聴会に出られるようになったのです。
そのお祝いを通訳の女性としていたときの事・・・。
レストランにいた女性が、それは私のものだ、と彼女のネックレスを指しながら話しかけてきました。
ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)がプレゼントしてくれたネックレス・・・。
彼は盗みを働いていたのです。
激怒している女性に対し、あまり罵倒しないで、とキャロル(ベレニス・ベジョ)が彼をかばった、女性が言いました。
死ぬまで面倒見るの?と―――。
ある日、ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)がキャロル(ベレニス・ベジョ)を訪ねて仕事場を訪れました。
彼はそこで初めて、自分の身に起こった体験を語り始めたのです。
両親の死や弟を置いてきたことなど・・・どの言葉を拾っても酷いものばかり・・・。
けれど彼にも希望が降ってきたのです。
それがキャロル(ベレニス・ベジョ)でした。
難民トラックに乗ったとき、この子にまともな暮らしは無理ね、と言われたけど、大人なのに知らないこともあるんだね、僕があなたに会えるとか―――その言葉に彼を抱きしめるキャロル(ベレニス・ベジョ)。
心の交流を深めたキャロル(ベレニス・ベジョ)は、公聴会へと旅立ちます。
しかし会は彼女の思っていたようなものではありません。
空席が目立つ会場でチェチェンの現状を訴えかけるも、その反応はとても乏しく・・・彼女の言葉はまるで、世界に届いていないような気がしたのです。
帰宅した彼女は、ハジ(アブドィル・カリム・ママツイエフ)を抱きしめながら、とある決意を胸に秘めています。
彼女が彼を連れ向かったのは赤十字でした。
ヘレン(アネット・ベニング)に、難民の少年を家族として迎える手続きを頼む、それがキャロル(ベレニス・バジョ)の決意でした。
待たせていたハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)に会う為、ヘレン(アネット・ベニング)が外へと出た時でした。
彼女はハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)を見るなり、一瞬動きを止めます。
ヘレン(アネット・ベニング)を見て目を伏せるハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)を連れて車に乗るように促す彼女。
状況が読めないキャロル(ベレニス・ベジョ)の運転で向かったのは電車の駅でした。
その日の朝、どうしても弟を諦めきれないライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリ)が赤十字を出ていたのです。
彼女を追いかけて向かった駅で、とうに出たはずの電車に乗っていなかったライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリ)。
後ろ姿の彼女にそっと近付き、顔を見るなり姉だとすぐに気づいたハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)。
姉弟はやっと再会を果たしたのです。
涙しながら抱き合う姉弟を見ながら、キャロル(ベレニス・べジョ)の顔には少し寂しさも浮かんでいます。
そんな彼女に向かって、ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)は姉に抱きしめられながらずっと笑顔を向け続けるのでした。
金品を略奪することにも手馴れたコーリャ(マキシム・エメリヤノフ)は、遺体からカメラを見つけました。
彼はそれを面白がって使い始めます。
―――そして映った映像は―――ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)の両親が殺されるあのシーンでした。
THE END
「あの日の声を探して」見所ポイント!
長らく続いたチェチェン紛争を舞台に作成されたフランス映画です。
この物語の主人公は声を無くした少年ハジですが、今作は彼だけでなく多角的にこの紛争を描き出すことで、争いが生む悲劇がより濃く、深く描かれています。
画面の色が暗く重い作品ではありますが、そこに時折挟まれる子どもの笑顔にとても救われる思いがしました。
ハジが自分の恐怖を打ち明けるシーンの、あなたにお返しがしたかったの、というシーンは胸が痛くなるほどの純粋さで・・・。
チェチェンとロシア、という国同士としてではなく、ハジとコーリャという二人の人間が両極端を担うようにして進む物語が、ラストでこんな繋がり方をするとは思っておらず、衝撃的で辛かったです。
個人的にはコーリャを演じられたマキシムさんの顔の変化に驚きました。
凡庸な少年の顔から精悍な軍人へ。
彼もまた戦争の被害者だということを見事に体現してくれました。
この撮影前に資料を読み込み、体重を八キロも増やして挑んだという意気込みが感じられます。
また、彼だけでなく今作に出演した俳優さんがみな、史実を埋もれさせてはならない、との使命感のようなものを背負って演じられているように思いました。
ハジ、マキシム、ライッサと、あまり演技経験のない若い役者を使ったこと、オールグルジアロケで映し出された荒涼としたバックグランド、そして手持ちカメラに夜臨場感がまるでドキュメンタリーのような作品です。
戦争作品が苦手な方にも、逃げずに向き合って観て欲しいなと思います。
日本ではやたらと美化して描かれる傾向に多い戦争映画ですが、実際はそこに美しいものなどないということを突きつけられる現実へ、ぜひ一歩足を踏み込んでみてください。