映画「眉山」は松嶋菜々子主演、犬童一心監督の2007年の映画です。
この映画「眉山」のネタバレ、あらすじや最後のラスト結末、見どころについて紹介します。
母と娘の強い絆を描くさだまさしのベストセラー小説の映画化した「眉山」をご堪能ください。
映画「眉山」あらすじ
『眉のごと 雲居に見ゆる 阿波の山 ──』
眉山(びざん)は、徳島県徳島市のシンボルとして、万葉集にも詠まれています。
まるで、なだらかな美しい眉のような山は、いつも人々を見守って来ました。
東京・神田で生まれた河野龍子(こうの たつこ)も、眉山に心を癒された一人です。
──若い頃、徳島に移り住んだ龍子は、娘・咲子を産みました。
独りだった龍子に、まるで花が咲いたように聞こえ力をくれた産声、だから“咲子”。
母娘、二人きりの家族、小料理屋を営みながら咲子を育てた龍子は弱さを見せません。
しかし“本音を見せない”母に苛立ちを覚えるようになる咲子は問い詰めました。
そして、14歳のとき、父親には他の家庭があったと母に知らされ愕然とします。
生まれてから一度も会った事がなく、家にも写真一枚ない咲子の父親。
「もう死んだ」と聞かされても、咲子はずっと「会いたい」気持ちを抱え生きて来ました──
母・龍子(宮本信子)が暮らす徳島を離れ、東京で働く咲子(松嶋菜々子)。
ある晩、子供の頃からの知人・“まっちゃん”こと松山(山田辰夫)から電話が来ます。
「さっちゃん…龍子ねえさんが、入院したんよ」
徳島へ向かう咲子は、未だ母へのわだかまりを残したまま。
一人娘に何も言わず、いつも勝手に物事を決めてしまう母に、咲子も素直に向き合う事が出来ません。
母と過ごせる時間が、そう長くないと知った咲子。
込み上げる寂しさは、やはり母を愛しているからです。
咲子は、これまで明かされなかった“若い頃の母と父の恋”を知り、触れられなかった母の心に触れました。
母と娘に出来た溝を、そばで見守る眉山がゆっくりと埋めて行きます。
映画「眉山」ネタバレ
まとめ髪、寝巻といえど身なりを整える龍子は“神田のお龍(りゅう)”と呼ばる江戸っ子。
正義感が強く、相手が誰だろうとピシャリと叱る。
それでいて、後腐れなくスッキリと収め、喧嘩相手も龍子を慕うようになるのです。
病床でも変わらない凛とした立ち振る舞い、小さな体でもその存在感は大きい人でした。
同室の患者の胸もスーッとするほど、若い看護師を叱ってやる龍子。
娘・咲子だけは「いい加減にして」と、顔をしかめます。
母・龍子の体は癌に侵され「何とか夏は…でも」と、咲子に告げる主治医の島田(永島敏行)。
きっと母なら潔く受け止める、けれど困惑する咲子は事実を伝える事が出来ませんでした。
病院の廊下、椅子に座る龍子と咲子に聞こえるのは、叱られた若い看護師の愚痴る声。
「……ベッドが空くまで、辛抱します」看護師のこの言葉に、先に怒ったのは咲子です。
看護師を庇うように軽率な事を言う、小児科医・寺澤大介(大沢たかお)に龍子も動きました。
いつもの調子でピシャリと叱る龍子に、ぐうの音も出ない大介。
何事かと人が集まる廊下、龍子は最後に見事な土下座で収拾します。
「……老い先短いババアから、お願いいたします。この世に生きる者同士、命の重さはお互い同じと思し召し…平等に…」
小料理屋も閉めケアハウスに入った龍子を、面倒見てくれるのはケアマネージャーの啓子(円城寺あや)。
気風が良い龍子が好きで、娘・咲子の事も気に掛ける優しい女性です。
咲子は啓子と共に、まっちゃんの店を訪ねました。
かつて、龍子が営む小料理屋の板前だった彼も“龍子らしい”病院の出来事に、しみじみと昔を懐かしみます。
あと、二か月ほどで“徳島市 阿波おどり”。
狭い座敷では、八月まで待ちきれない店の客が鳴り物に合わせて踊ります。
「龍子さんが良くなったら、阿波おどりは皆で行かなアカンな!」
啓子の言葉に涙がこぼれる咲子を、まっちゃんが静かに見つめました。
翌日、龍子に啖呵を切られた小児科医の大介は真摯に謝罪し、咲子そして龍子をも笑顔にさせます。
「あの“お龍”を、怒らせた!」と、病院長・小畠(中原丈雄)も寺澤を笑いました。
貧乏学生だった頃、龍子に世話になった小畠も彼女を慕う一人です。
また“夢草会(ゆめくさかい)”に名前が載る龍子を、医師として心から感謝するのでした。
その事実を知った大介は、龍子と咲子の心に寄り添うようになります。
咲子から母への思いを打ち明けられた大介は、龍子がしっかりと死と向き合う覚悟が出来ている事を伝えます。
「“夢草会”と言うのを聞いた事ありますか?“献体”と言う言葉は?」
体を献ずる……医学生たちの解剖実習、医学の研究および発展のために自分の死後、無償で遺体を提供する事。
何の相談もなく献体の支援組織・夢草会に入会していた母に、咲子はショックを受けます。
ある晩、まっちゃんが咲子に渡したのは、龍子から預かった風呂敷包み。
龍子との約束は「自分が死んだら、咲子に渡して」でも、それでは遅いと感じていました。
一人きりの部屋で包みを解く咲子、そこには東京に住む篠崎孝次郎から龍子に宛てた手紙の束、消印は咲子の誕生日です。
母と男性が写る、一枚の写真の裏に記された“1971年 6月15日 眉山”。
咲子が生まれる、一年ほど前の日付でした。
繋いだ大きな手、腕時計、蛍……おぼろげな記憶を辿ると、幼い咲子が見上げたその顔が写真の男性と重なります。
母・龍子は現在もこの写真と同じように、左薬指に指輪をしていました。
「本当の事おしえて、生きてるんでしょ?お父さん。どうして嘘ついたの…」
真剣な眼差しの咲子をはぐらかし、近づいてるであろう死期も笑ってみせる龍子。
寂しさと悔しさをぶつける娘に、母は何も言ってくれませんでした。
母には、母の人生があった……そう分かっていても、咲子は気持ちの整理が出来ません。
徳島の街は、阿波おどりの稽古が盛んになってくる頃。
言えないツラさ、聞けないツラさを抱えたままの、母娘を気に掛ける大介。
東京に戻り、篠崎孝次郎を訪ねる決心をした咲子を支えます。
篠崎が龍子に宛てた手紙に目を通す咲子は、一つ一つ気持ちを整理。
徳島は篠崎の故郷、たった一枚だけの二人一緒に写った写真。
独りになった母は、どんな思いで眉山を見つめていたのか……咲子は、篠崎医院に着きました。
昔のまま変わらない小さな待合室には、ここを拠り所にする年寄りが集まり、受付の女性(入江若葉)も優しく咲子に微笑みます。
母・龍子と変らない年齢の女性に、緊張してしまう咲子。
待合室の患者に話し掛ける篠崎医師は、見覚えのある腕時計をしていました。
ゆっくりと診察室へ入る、咲子の方を振り返った篠崎(夏八木勲)は、その顔を見るなり問診票を見直します。
「ご出身は?」
「徳島です」
静かに目を合わせる二人。
名前を出さずとも龍子の近況に触れ、体調を崩している事を篠崎に伝えました。
「もうすぐ、踊りの季節ですね…徳島の事です。もう30年も見ていません」
「よろしければ、遊びにいらして下さい」と、言えた咲子ですが、硬い表情は崩れませんでした。
初めての対面、父娘とも名乗らず篠崎と咲子は別れます。
『……龍子、すまない。こんな病院でも捨てる事は出来ない、献身的に支えてくれる妻を裏切る事が出来ない』
“阿波おどり”の夜、再会を待ち続けた龍子のもとに、篠崎が姿を見せなかった過去。
手紙を書いた篠崎、そして読んだ娘・咲子は龍子を思います。
龍子の容体が急変したと、連絡を受けた咲子は徳島へ。
暗い顔の咲子に「バカだねぇ、いちいち来ること無いのにさ」と、いつもの調子で言ってみせる龍子の声はか細いものでした。
どんなにツラくても、決して弱音を吐かない龍子。
咲子は、母が貫く生き方、愛し方を、その目でしっかりと見つめます。
幼い頃に、母と篠崎と一緒に見た蛍、そして篠崎と指切りをした約束。
「……お母さんの事を助けてあげて欲しい、そばに居てあげて欲しい」
悲し気な表情の篠崎に抱っこされた咲子が「うん」と答えると、二人は笑顔になった……
甘えるように、母に寄り添う咲子は「お父さんに会うたんよ…ちゃんと話せんかった」と、伝えます。
握られた手をゆっくりと動かし、娘の頭を撫でてやる龍子。
その温かい手に、咲子は涙が止まりませんでした。
母には、この夏の“阿波おどり”が最後かもしれない……咲子は主治医・島田を説得し外出許可を貰います。
ずっと大事にして来た指輪を、咲子の右の薬指にはめてやる龍子。
「そ~ら、ぴったしだ。ルビーは身を守るからね、お前にあげるよ」
左の薬指は“誰かさん”のために取って置いてあげると、笑ってみせます。
映画「眉山」最後ラストの結末は?
八月、蝉の声が響く夏空、病室に歓声が上がりました。
まとめ髪にキリッとした浴衣姿の“神田のお龍(りゅう)”そして、鮮やかな萌葱色(もえぎいろ)の浴衣が良く似合う咲子。
まっちゃん、ケアマネージャーの啓子、小児科医の大介と共に“阿波踊り”会場へ向かいます。
道中、道ならぬ恋に苦しんだ事、そして自分に生きる力を与えたのは咲子だと伝える龍子。
どこもかしこも熱気に満ち溢れた徳島の街に、咲子は篠崎が来ると信じます。
あの日の母のように、橋を行き交う人波に篠崎を捜す咲子ですが、見つける事は出来ませんでした。
龍子が座る演舞場は、お囃子(はやし)の音が鳴り響き、踊り子たちに人々が熱狂。
いよいよ、33連もの有名連が演舞場を埋め尽くすフィナーレ、総踊りの時が来ます。
肩を落とし、龍子が座る席へ戻ろうとする咲子、ふと目を向けた反対側の客席に篠崎を見つけました。
踊り子たちの間を縫って、篠崎に近づこうとする咲子は力一杯叫びます「お父さん!」
辺りを見回す、篠崎の目に咲子が映りました。
今にも泣き出しそうな咲子の顔、頷き視線を送るその先に篠崎は龍子を見つけます。
結ばれる事はなかった、篠崎と龍子。
しかし、二人の間に生まれた咲子の願いは、もう一度だけ父と母を会わせてあげたい……
龍子は、静かに篠崎を見つめながら言います「……十分、楽しかった。ありがと…」
母と同じく医師を愛した咲子は、小児科医・寺澤大介と結婚。
そして二年後、献体の支援組織・夢草会が執り行う慰霊祭に出席します。
献体は、医師を育てるためにとても重要なもの。
父と出会い命の重さを感じる事が出来た母らしい最後を、咲子は誇りに思うのでした。
咲子は、献体に関わる医学生たちに、母・龍子が残したメッセージシートを手渡されます。
母が献体を望んでいると初めて知った時、大介は「手紙みたいなモノ、何を書いても良い」と、咲子に教えました。
『娘、河野咲子が 私の命でした。』母の気持ちを知って、涙がこぼれる咲子。
晴れ渡る空、顔を上げ笑顔を見せる咲子と大介を、眉山が見守ります。
完。
映画「眉山」の見どころと原作との違い
本作は、小説家としての一面も持つ、さだまさしの長編小説『眉山』の映画化。
江戸っ子気質の河野龍子を演じた、宮本信子は流石の存在感です。
叱る時の鋭い眼光、心底嬉しそうな笑顔、他人を真剣に思うその姿は見惚れてしまいます。
病に屈しない負けん気の強さに胸を熱くさせられ、実はトランプゲームが弱いのも可愛い!
松嶋菜々子が演じた咲子の母そして父への思いに、いつの間にかあなたの頬を涙が伝っているかも。
私生児だとしても、咲子の父親は間違いなく存在して「会いたい」は、至極当然の感情だと思います。
初めて父(夏八木勲)と対面、そして母に「…ちゃんと話せんかった」と伝える表情は、寂しさで一杯。
素直な心を見せる咲子と、大事な娘を泣かせてしまった龍子の“頭なでなで”は、母娘の切なくも温かいシーンです。
これは、映画版の基となる、小説『眉山』との比較になりますが……
14歳の咲子(小説では17歳)が、父のことで母を問い詰めた時。
“潔さ”で言えば龍子の対応は、小説の方が好みです。(※個人の感想です)
共に「お母さんは、あなたのお父さんが“大~好きでした”…」と言う、セリフが出て来ます。
このシーンは、決してふざけてるのではありません!
龍子が篠崎との恋に後悔がない事を印象付け、宮本信子の「大~好き」と言う顔が本当に優しい。
その後のストーリー展開も、小説の方が好きですが……
『母だから言えなかった 娘だから聞けなかった』が、映画版の大事なポイントなんですね。
スパッと割り切る事が出来ないから苦しい、そんな感情が俳優陣から伝わってくる。
そして、映画版だからこそ味わえる阿波踊りの熱気は、とってもオススメですよ。
生命力に満ちた踊り、弾ける笑顔、賑やかな鳴り物に掛け声!
人々が一体となる「祭りって良いな~!」って胸が高鳴り、なんだか泣けて来ます。
阿波踊りの演舞場、篠崎と龍子が再会を果たすシーンは、父を見つめる母を初めて見た咲子の一筋の涙が美しい。
個人的に好きな俳優・山田辰夫にも、ぜひ注目して欲しいです。
龍子の「楽しかった。ありがと」の言葉に、涙をグッと堪えた“まっちゃん”の表情はたまらない!
「もう帰ろう」と言う流れからの“ありがとう”なので、その潤んだ目に龍子との最後の夏が終わる寂しさを感じます。(啓子(円城寺あや)も然りです)
本作は、妬みを持った悪い人が一人もいない、キレイ事で描かれています。
もちろん「不貞行為じゃないのー!」と、嫌悪感を抱く人も居るでしょう。
入江若葉が演じた、篠崎の(きっと)妻の柔和そうな微笑みは、ともすれば父に会いに来た咲子をギュッと抱きしめてくれそう。
憎しみではなく、相手を思いやる登場人物たちに心を寄せて、観て頂きたい作品です。
ちなみに、大沢たかお演じる寺澤大介と咲子の恋愛は、強引にねじ込んだ感があるくらい速攻くっ付きます。
それがメインではないので、あしからず。
でも、子供と遊んだり、咲子との仲を龍子に見抜かれて照れる笑顔はキュンです♪
『眉山』は“献体”というテーマも含まれています。
映画版では、大きく時間を割いていませんが、龍子の貫く人生は見事としか言えません。
(これに関しては、献体について説明する小説を読むと、より深く理解できるかも…)
最後、メッセージシートの場面は、母から娘への直球過ぎる愛情に号泣必至です。
徳島で生きる人々の優しさ、躍動感あふれる阿波踊りに胸が熱くなる本作を、どうぞご堪能下さい。
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